
葡萄圧搾機の木棒
フランス
高180cm程
sold





この螺旋状の円柱は、前回の欧州買付の際にフランスの中部地方から持ち帰ったものです。建造物の柱か彫刻のような立ち姿ですが、本来は葡萄酒を作るための古い器具。ネジを締めることで万力のように調整しながら圧力をかけて、葡萄から果汁を搾りだす機能を果たした木棒です。
実のところ、このような木棒を自分が初めて見たとき、恥ずかしながら何の役目かも知る前に、物の持っている気配にただただ衝撃を受けて購入したのでした。
その後に調べていくうちに、この葡萄圧搾の木棒たるものが、骨董や工芸の著名な本に掲載されていることや、彫刻家ブランクーシがアトリエに備え置いて着想を得ていたことを知りました。
その最初に手に入れた実物はというと、自著『まなざしを結ぶ工芸』の第一章にて紹介しています。
そして、今回の出会ったものは1.8メートル近い高さがあるため、いつか頑丈な鉄製台座を設えようと決めていました。そこで知人の腕利きの鉄工職人へ製作依頼していたところ、買付直前に仕上がったとの連絡があり、早々に受け取りに行き、急遽撮影した次第です。
ちなみに、この手の木棒はヨーロッパの道具屋や市場で見かけると、テーブルや照明に加工されていたり、あるいは既にカットされている断片が多いのですが、これは付け根から先端まで、ほとんど当時のままの完全な状態で保管されていました。製作年代は定かではありませんが、十九世紀は下らなさそうな古い木膚と造形です。
完成した台座は、鉄板から少し浮かせている効果で、付け根のフォルムが際立ち、より螺旋も長く伸び立って見えます。素朴な道具でありながらも、台座との融合によって抽象的な彫刻へと作品化しました。
長く重厚な、今回の木棒を眺めながら、あらためてブランクーシのアトリエ風景と彫刻や台座を資料から見返していると、これまで見落としていた新しい発見がありました。それは、木棒の付け根、つまり圧搾器具との接合部分の造形が、ブランクーシの作っていたさまざまな台座とよく似ていたことです。
今までは延々と続くネジの螺旋の影響にばかり、ずっと目を向けていましたが、、じつは木棒の台座(付け根)こそ重要だったのではと今更ながら感じ取りました。
付け根の穴の空きかた、面取りや円柱の連続する造形は、物理的な構造により生じた自然な姿ですが、ブランクーシはその実用的な道具の造りに美しさを見い出し、台座へと派生させたのかもしれません。またそれは、彼が従来の彫刻における台座の在り方を覆す、その糸口となった存在のようにも思えました。
この木棒は、保護の塗料が後年に施されておりません。ひび割れ、擦れ、まろやかになった木肌は、いまも生きているように生々しく魅力的です。
欧州の風土や生活に根ざしたありふれていたはずの古民具を、どのような視点からブランクーシは見ていたのか。
渡欧前夜、あらためて、古い物を見つけ出すということを考えています。
